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ビジネススキル本というよりは、自己啓発本として良書

『天才の閃きを科学的に起こす 超、思考法――コロンビア大学ビジネススクール最重要講義』』(ウィリアム・ダガン著 ダイヤモンド社)
こんにちは、温泉大好きフリーランスの山田(@aryuaryu)です。今回紹介する所々は、『天才の閃きを科学的に起こす 超、思考法――コロンビア大学ビジネススクール最重要講義』』。まず、タイトルからイメージされるもの(「超・思考法」という言葉)と、実際に本書を読んで得られる価値には乖離があります。ロジカル・シンキングや、ラテラル・シンキングに該当するような、新しい実用的な思考法が学べるのかと思うと全然違います。
どちらかと言うと、中長期的な人生設計を考えるための自己啓発本でした。そして、その文脈で言うと、近年稀に見る素晴らしい人生設計ツールが提案されている著書です。
「人生の目標達成の見取り図を作るための考え方」「目標を実現するための戦略図」を作るための著書としては、現在の環境変化の早い時代において、ものすごく質の高い考え方を提案していて、もっと評価されても良いと思うのですが、いかんせん、タイトルと中身のイメージのギャップや、内容のまとまりや読みにくさが残念なところ。意見が分かれそうですが、個人的には大変良書だと思っており詳しく紹介します。「人生戦略マップ」の考え方は特に知って欲しい。
超、思考法で展開されている「第7感」とは
本書、『超・思考法』で終始展開されているのが「第7感」という力です。「第6感(シックス・センス)」というのは、よく聞く言葉ですが、それより上位の第7感とは何でしょうか。ちょっとトンデモなものを想像してしまいますが、そんなことはありません。
まず、本書の定義での「第6感」とは
これまでに似た経験を利用して、直感的にすばやく「判断」できる能力
としています。このような「第6感」は、変化の少ない時代や状況では大変強力な武器なのですが、過去によく似た状況や関連性が高い状態でしか通用せず、変化や新しい状況とは相性が悪いとしています。
一方で、本書で取り上げられている「第7感」とは、
新たなアイデアを生み出す脳のメカニズムを指します。「判断」というよりは「アイデアの発想・ひらめき」の瞬間ですね。この「第7感」は工夫によって発生の頻度を上げたり、発生の可能性を上げることができるというのが著者の主張です。
「第7感」を向上させるためのステップ
もちろん、私たちは第7感である「アイデアのひらめき」を完全にコントロールすることは不可能なのですが、著者はプロセスの中で制御可能なものがあるとしています。
※P20引用
ひらめきは自然発生的に起こるが、他の3つのステップはコントロールできる。つまり、私たちは訓練によって第7感を向上させ、それを最大限に活用する方法を学べるのだ。それが、この本のテーマだ。
その上で、第7感を構成する4つのステップを以下に定義します。
- 歴史の先例
- オープンマインド
- 突然のひらめき
- 決意
3番の「突然のひらめき」が制御不能な部分で、あとは訓練可能ということです。
まず、1番の「歴史の先例」ですが、これはひらめきの材料となるもので、自分の経験に限らない、ありとあらゆる知識です。
次が2番の「オープンマインド」の状態です。これは目下の課題や目標などに心がとらわれていない「無心」「バイアス無し」の状態です。この状態をどうやって作るか、どう付き合うかが第7感の肝といってよさそうです。
最後の4番の「決意」は、実際にひらめきを実行に移すフェーズです。ひらめいたアイデアでそのまま突っ走るのではなく、ステップを踏んで実現可能なものまで、確信に基づいて軌道修正しつつ実行していくことを指します。
本書の中では、「歴史の先例」「オープンマインド」の段階で、どのような思考法や行動を行うと、「突然のひらめき」に達しやすくなるか、また、実行可能な「決意」に至るプロセスのヒントを詳しく解説しています。特に「決意」の部分で、「人の意見を聞くときの注意事項やプロセス」は面白いです。人にアドバイスを聞いたせいで、否定されまくってアイデアがぶち壊されるということは頻繁にありますからね。気になる方は本書をお読み下さい。
で、ここまでを読むと、最初に書いたいわゆるラテラル・シンキングとか、ロジカルシンキングみたいなのを期待した方はがっかりするわけです。
「突然のひらめき」が、いつ発生するのかわからない以上、短期的な果実のために思考を鍛える内容とは大分かけ離れているわけです。どちらかというと、もっと長い目で、自分のやりたいことや、事業の発想などのチャンスを広げる考え方ということが分かるでしょう。実際に、スターバックスの創業者、ハワード・シュルツが、どうやってスターバックスのアイデアを生んで、実行に移したのかが、このフレームワークの中での事例として書かれていて参考になります。
ストレス対処法としてのフリー・ユア・マインド
次に、 「第7感」を鍛えるための日常的な習慣として「フリー・ユア・マインド」の話が展開されています。
これについては、どちらかというと、ストレスに対する対処法みたいな感じで、感覚的には第7感の話とちょっとずれている気がしますので詳細は省略します。ステップとしては下記の通りで、確かにストレスが減りそうです。
※P144「フリー・ユア・マインド」ストレスを戦略に変える技法
- すべての「問題」を書き出す
- 「過去」と「未来」に分類する
- 「コントロール可能(ダルマ)」か「不可能(カルマ)」か?
- 「行動」を決める
現代最強の人生設計ツール、「人生戦略マップ」
で、私が本書を読んで一番得るものが多く、真骨頂なパートはここ!「人生戦略マップ」の箇所かなと思っています。基本的に、様々な自己啓発本で推奨されている、人生設計の見取り図の作り方は、明確にやりたいことを決めて、それに向かって走っていくものが多いのですが、本書の「人生戦略マップ」は全く考え方が違っています。
まず、
「やりたいこと」をどれか一つ取れば他が成り立たなくなる
という不都合な現実が前提になっています。
「人生戦略マップ」のステップとしては、第7感の概念を取り込みながら、とにかく「やりたいこと」を片っ端から表に記入していきます。「やりたいこと」がそれぞれ矛盾していても問題なし。一つの「やりたいこと」が叶えば他の「やりたいこと」が叶わなくなるようでも問題なし。それぞれの「やりたいこと」について、下記の項目を埋めていきます。
- やりたいこと
- 目標
- 行動と障害
- 未知のステップ
実例や、詳しい記述方法は本書を読んでみて下さい。
この「人生戦略マップ」は毎年更新していくものなのですが、この考え方が素晴らしいのは、基本的に「毎年、戦略マップの内容が変わっても全然構わない」という点です。「必ずそれぞれの目標を達成しなくてはいけない」とは一切考えず、まずは「やりたいこと」を書き記して、それぞれの初期ステップを書いていきます。
例えば、現代では一人ひとりが、正直無茶ぶりな複数の課題や、案件を抱えていることが日常茶飯事になってきています。例えば…
- 「子供とたくさんの時間をすごして良き親になりたい」
- 「仕事でバリバリ働いて社内でも、突出した結果を出してマネージャーに昇格したい」
といった二つの典型的な希望。これは一見、矛盾します。で、実際こういった複数の「やりたいこと」を、私たちは今まで以上に抱え込んでしまいやすい社会に生きています。
また、社会の流動性が大幅に高まっていることから、長期的に「やりたいこと」、「達成したい目標」というものも状況がどんどん変わって、方向転換を余儀なくされます。もしくは、一年後には、「やりたかったこと」をもうやりたくなくなる、みたいなことが頻繁に起こってくるわけです。
そういった点で、複数の矛盾する「やりたいこと」を入れ込み、それを前提に小さなステップを設定していく本書の戦略マップは、かなり近年の時代変化に即したものです。まさに、「オープンマインド」で人生戦略をマッピングしていくということですね。
この考えは、想定外の事態が発生した時には特に強みを発揮します。本書で、この戦略マップを実行した人のインタビューを読むとイメージが湧きやすいので一部引用します。
※P177引用
この学期中に起こったある出来事によって、私はキャリアプランを大きく変更することを迫られていました。しかし、この講義を受講したことで、私は予期せぬ出来事は新たなチャンスに変えられること、それに応じて目標を変更してもよいことがわかるようになりました。
じつは、私はこの夏に初めての赤ちゃんを出産する予定なのです。夫とともに大きな喜びを感じてはいましたが、将来の計画を大きく変更しなければならないと感じていました。どんな将来が待っているのか、予測できることよりも、予測できないことのほうが多いくらいでした。
(中略)
私にとて成功の定義は、もはや唯一の大目標を達成することではなくなりました。私にとっての成功の定義は、つねに心をオープンにしておき、いまの自分には見えないような大きな目標が見えたときに、素早く軌道を修正してそれを追い求められるように準備を整えておくことに変わったのです。
変化に強いだけでなく、自分の「やりたいこと」や実行可能な「行動」を人生戦略マップとして記録し意識化に置くことで、都度都度発生する様々な偶発的な「きっかけ」に常にオープンになり、チャンスを掴みやすくなります。ここで、第7感のステップで出てきた、ひらめきのための「歴史の先例」と、「オープンマインド」が準備されているというわけです。
最後に、いわゆる人脈術としての「アイデアネットワーキング」というやり方が載っていて、これについては私はちょっと違和感が…。
- 興味を引き出す良い質問をする
- 自分の「やりたいこと」を知る
- 目標につながる「質問」を考える
- 質問すべき「相手」を1人見つける
- テーマそのものではなく「先例」を話題にする
これは、個人的には「うーん」という感じだったので省略します。
囚われない自由な目標設定としての「人生戦略マップ」に関心があればおすすめ
繰り返しなのですが、率直に言うと、著書の内容がまとまっているようでまとまっておらず読みにくかったり、タイトルと内容にずれがあったりと、著書としては疑問にのこる部分もありました。
一方で、本書で紹介されている「人生戦略マップ」の考え方は、私がここ数年読んだ様々な著書で紹介されている目標設計のツールと比べても、時代の流れを的確に反映した飛び抜けて秀逸なものです。「オープンマインド」で囚われない、でもチャンスを一つ一つものにできるような、目標設定がしたいという方は、一読の価値がある著書です。
『天才の閃きを科学的に起こす 超、思考法――コロンビア大学ビジネススクール最重要講義』』(ウィリアム・ダガン著 ダイヤモンド社)
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