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巷に溢れる怪しい成功法則の真偽に迫る一冊

『残酷すぎる成功法則 – 9割まちがえる「その常識」を科学する』(飛鳥新社)
こんにちは、温泉大好きフリーランスの山田(@aryuaryu)です。いろいろな成功本やビジネスノウハウ本を読んでいると、著書によって全く正反対の意見が述べられていることがあって「実際どっちが本当なんだ?」と首をかしげたくなりませんか?
また、ビジネス本の中には、明らかに著者の特殊な環境や優れた能力だからこそ成功できたという再現性がないとしか考えられないものも散見され、混乱に拍車をかけます。
「成功法則」の否定ではなく、あくまで検証
本書『残酷過ぎる成功法則 – 9割まちがえる「その常識」を科学する』のメインテーマは、氾濫する様々な「成功法則」の検証です。タイトルを見る限り、「成功法則の真実はシビアで残酷」という形で安易な成功法則を否定した著書のイメージを持たれるかもしれませんが、中身は全く異なります。
本書の中身は、成功法則でよく言われていることは本当なのか?裏があるのではないか?ということについてエビデンスを集めて分析した著書であり「成功法則」そのものの否定ではありません。
むしろ、成功法則として耳にする様々な説の中から、真摯に価値のあるものを選び取り解釈する作業を行っています。元々、著者はブログの中で相当量の成功法則の検証を行っているようですが、本書では、その中でも選りすぐりのテーマを扱っています。
全く反対の成功法則、一体どちらが正しい?
本書で取り上げられるテーマは以下のようなものです。
- 成功するにはエリートコースを歩んだ方が良いのか、そうでない方が良いのか?
- 「いい人」と「したたかな人」、「身勝手な人」どれが成功しやすいのか?
- 諦めないで続ける人と、切り替えの早い人、どちらの方が成功しやすいのか?
- 「人付き合いの良い人間」は損をするか、得をするか?
- 自信がある人、自信がない人、結局どちらの方が成功しやすいのか?
- ワーク・ライフバランスと、仕事バカ、どちらの方が仕事で成果が出やすいのか?
気になるテーマですよね。私自身もドキッとするものが多く、読み耽ってしまいました。あなたにも、この中で一つでも気になるテーマがあれば、買いでしょう。
そもそも、「成功本」と呼ばれるものは、その多くが信用にかけます。その理由について本書の監訳者の橘玲氏の言葉を引用します。
※P3引用
日本にも「幸福になれる」とか「人生うまくいく」とかの本はたくさんあるが、そのほとんどは二つのパターンに分類できる。
①著者の個人的な体験から、「わたしはこうやって成功した(お金持ちになった)のだから、同じようにやればいい」と解く本
②歴史や哲学、あるいは宗教などを根拠に、「お釈迦さま(イエスでもアッラーでもいい)はこういっている」とか、「こんなとき織田信長(豊臣秀吉でも徳川家康でもいい)はこう決断した」とか説く本
じつはこれらの本には、ひとつの共通点がある。それは証拠(エビデンス)がないということだ。
(中略)
じつは、エラいひとの自慢話や哲学者・歴史家のうんちく、お坊さんのありがちな講話がすべて間違っているわけではない。困るのは、そのなかのどれが正しくて、どれが間違ってるかを知る方法がないことだ。
それに対して、本書はまさにそのエビデンス集めと比較を行った一冊にあたります。
とはいえ、本書を読んで「真実が分かるのか」というと、それは過大評価で、あくまで世に出ている研究成果、学説などを比較検討した上で、一定の解釈を出しているといるものと判断するくらいがちょうどよいでしょう。
成功法則は存在している。でも、もっと現実的なもの
本書の各成功哲学に対する結論というか全体的な視点は、「この成功法則が正しい」「このシンプルなことをやれば成功できる」という明快なものではありません。読んでみると分かりますが、著者の視点は「成功法則」は確かに存在しているが、単純なものではなく、一定の努力や工夫を要したり、ケースバイケースの部分があるという、極めて現実的な帰結の傾向があります。
個人的には、この点が、本書の説得力を増すことにも繋がっていますし、「成功法則」と呼ばれるものがどの程度有意義で効果的なのか、その「範囲」が見えてきて、安心してアクションに移したいと感じるきっかけになりました。
具体的に紹介してみます。
例えば、対人関係の最強ルールの箇所は、こんな感じで結構複雑です。
- 自分に合った池を選ぶ
- まず協調する
- 無私無欲は聖人でなく愚人である
- 懸命に働き、そのことを周囲に知ってもらう
- 長期的視点で考え、相手にも長期的視点で考えさせる
- 許す
「与えれば、返ってくる(give and given)」みたいなシンプルな成功法則ではなく、ちゃんとステップを踏んで、対人関係を作る必要ありということのようです。
引き寄せの法則は、逆に目標の実現を遠ざける
かの有名な、「引き寄せの法則」についても、本書はシビアです。
まず著者の結論は以下のようになります。
※P159引用
ポジティブな自分への語りかけと楽観主義は、たしかに諦めずに目標を追求できるように助けてくれるが、それ自体が目標達成を保証してくれるわけではない。もちろん、夢見ることが本質的に悪いわけではない。が、第一歩にすぎないのだ。その次に、せっかくの夢に水を差す怖ろしい現実と、どこまでもつきまとう障がいに立ち向かわなければならない。
その根拠は、以下のエビデンスによります。少し長いですが引用します。
※P158引用
ニューヨーク大学心理教授のガブリエル・エッティンゲンは、欲しいものを夢に思い描くだけで、実現の可能性が高まるといった類の説に猜疑的だった
そこで、同氏は研究を重ね、自分の考えが正しいことを証明した。実際、彼女は十二分に正しかった。夢見ることは、あなたの望みを実現しないばかりか、欲しいものを手に入れるチャンスをも遠ざけてしまう。いやいや「ザ・シークレット」(欲しいものについて考え続ければ手に入れられるとする「引き寄せの法則」の知識と実践を意味する言葉)は効かないのだ。
人間の脳は、幻想と現実を見分けるのが得意ではないことが、明らかにされている(だから映画はスリリングなのだ)。何かを夢見ると、脳の灰白質はすでに望みのものを手に入れたと勘違いしてしまうので、自分を奮い立たせ、目標を成し遂げるのに必要な資源を集結させなくなってしまう。そのかわりにリラックスしてしまうのだ。
するとあなたはやるべきことを減らし、達成すべきことも減らし、結局夢は夢で終わってしまう。残酷な話だがポジティブシンキングそれ自体は、効果を発揮しないのだ。
そのため、目標を達成するためには、「WOOP」という、詳細な計画とアクションの仕組みが必要になってきます。
※P161引用
エッティンゲンは、これと同じシステムを、私たちが実践しやすいシンプルな形にまとめ「WOOP」」と名付けた(正式な用語では「心理対比」というが、ここでは「WOOP」と呼びたい)。WOOPとは、願い(Wish)、成果(Outcome)、障害 (Obstacle)、計画(Plan)の頭文字を取ったもので、仕事や人間関係、運動、減量など、ありとあらゆる目標に適用できる法則である。
まず、自分の願いや夢をイメージする(「素敵な仕事に就きたい」)。次に、願いに関して自分が望む成果を具体的に思い描く(「グーグル社で事業部長として働く」)。それから現実を直視し、目標達成への具体的な障害について考える(「同社の面接を受ける方法がわからない」)。障害に対処する計画を考える(「グーグル社で働いていて、人事部に連絡してくれる知人をリンクトインでチェックする」)。
WOOPとかっこよさげな名称がついていますが、要するに夢を現実化するためにプロセスを細分化してPDCAを回しましょうということです。付け加えると、WOOPについては、願望が現実からかけ離れていればいるほど機能しないそうです(オーストラリアの皇帝になりたいなど)。そりゃそうだ。
代表的な成功法則について、一冊で学べてしまえるのがこの著書のおすすめポイント
本書は、万事こんなノリで進んでいきます。残酷な成功法則の「残酷」な部分は、そんなにシンプルで簡単な成功法則なんてないよということです。一方で、確かに成功するための堅実な方法というのは存在していて、それが何なのかということを突き詰めている一冊であり、成功法則をディスったり否定している本ではないことは誤解なきように。
結論部分は、読者が望むような、「楽して簡単」「すぐ結果が出る」ようなものではないかもしれません。ストレートな答えを求めている人には、遠回しで分かりにくく感じるでしょう。しかしそれ故に、地に足の着いた本当に使える結論が多いのです。それらについては、ぜひ本書を読んで確かめてみてください。
私のように、成功本やビジネス本大好き人間にとっては、代表的な成功ノウハウについての検証は掛け値なしに面白く、強く推奨できる一冊です。
普段、成功本を読まない人にとっても、本書はある意味で成功本への手引きといっていいくらい、現時点での成功本の諸説が凝縮されている一冊になっているため、それらのインプットが解釈付きでまとめて実現できるお得な本でもあります。
『残酷すぎる成功法則 – 9割まちがえる「その常識」を科学する』(飛鳥新社)
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