なぜ、ビジネス書は売れなくなったのか?『平成のビジネス書 – 黄金期の教え』【書評】

ビジネス書は、すでにオワコンなのか?

平成のビジネス書 – 「黄金期」の教え (中公新書ラクレ)

「なぜ栄え、衰えたのか?」というセンセーショナルな帯のメッセージで思わず購入。
著者は、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の著者、山田真哉氏。

最初、ページをめくりはじめた時は、正直騙された感がありました…。
というののも著書の7割〜8割が、過去に他媒体で掲載していたものを中心とした書評です。しかも、最近の著書はなく、ビジネス書黄金期と言われる2002年〜2010年のころのもので構成されています。
それ自体は、タイトルとずれてないからいいのです。でも、当時の書評そのまま(?)で、それに対する考察がほとんどない。

黄金期とは何だったのか、なぜビジネス書の売上が大幅に落ち込んだのかという分析については全体に対して一部分…。うーん…。

思わず紹介された本を何冊も買ってしまったほど、面白い書評パート。

ところが読んでみると、書評パートが非常に面白い。読んだことがない本だったり、もう一度読んでみたくなった本だったり、何冊かAmazonでお買上げしてしまいました。
もう著者は完全にビジネス書オタクですね。ビジネス書自体もちろん好きなんでしょうが、どうやったら売れるのか、売れる本はどういうものなのか徹底的に研究しているのが本書を読んでいるとよく分かります。本当にすごい。

書評パートについては、「萌えさん」と、「カッキー」という二人の会話調なのも、二人の異なる視点という切り口になっているため、書評対象の著書に対して一方的な絶賛や批判にならなず中立的なものです。会話なので読みやすいというだけでなく、結果的に、紹介している著書の評価に奥行きを与えるものになっています。

また、さすが著者の専門分野というか…会計本のセレクトと書評が本領発揮という感じで素晴らしいです。紹介された本全部読みたい。

当時のビジネス書ブームを体験した身としては、書評を読んでるだけで涙腺が緩んでジーンときます。書評を読んで涙するってなんぞ?と思うかもしれませんが、分かる人には分かるはず。懐かしい。

ビジネス書バブルとは何だったのか…。

さて、本来のお目当ての考察編。「ビジネス書バブルはなぜ崩壊したのか」の部分です。

そもそも「ビジネス書バブル」とはどんな時代だったのか。筆者の言葉を引用します。

※引用P197
さて、「はじめに」でもお話したとおり、2000年代はまさに「ビジネス書黄金期」でした。『チーズはどこへ消えた?』350万部、『金持ち父さん、貧乏父さん』126万部…。
話題だからとりあえず読んでおかなければ、と思える本が次々に現れました。
しかし、「出版不況」が深刻になったのもこの時期からでした。
つまり、ビジネス書バブルというのは、出版不況を何とか克服しようとあがいた出版社側の努力と、「失われた20年」から脱出するヒントを本に求めようとした人々の需給がマッチしたことにより生まれたものでした。いま現在、当時の課題が解決したとは言い難いのにビジネス書バブルが崩壊してしまったのはなぜか。それにはいくつかの通説があります。

 

ここで、著者は、ビジネス書バブルが崩壊した原因となる5つの通説について触れます。
1.想定外の時代(過去との断絶)
2.人口減少
3.キャリアアップは時代遅れ
4,ノウハウが出尽くした
5.ネットに負けた

この通説の中にはウソと本当が混ざっていて、本当の原因は2つというのが著者の意見です。
その二つは、「人口減少」と、「ネットに負けた」

その詳細を読むとなるほどと思うものです。

人口減少(&高齢化)の影響は、本屋に行けば納得。

「人口減少」については、非常に分かりやすいですね。現役で働いている人が減れば、当然、ビジネス書の売上は減っていきます。生産年齢人口がどんどん減っているし、労働市場も平均年齢が高くなれば、言い方は悪いですが、彼らもキャリアアップや仕事の効率などよりも、「健康」だったり「やり過ごすこと」に意識が向いてきて、当然、王道の内容の「ビジネス書」が売れなくなってきます。
実際、最近は書店のランキングコーナーに行くと、明らかに高齢者向けの本ばかりです。

※P201引用
象徴的なのは、2016年のヒット作、佐藤愛子さんの『九十歳。何がめでたい』(小学館)、『人間の煩悩』(幻冬舎新書)でしょう。活字メディア、特に出版界は、テレビ以上にシニア化しているのです。

他にも、書店の平積みコーナーは健康系の本のオンパレード。最近ではビジネス書も健康に関係する著書が並びます。

ネットに書いてある情報で十分。

次に、「ネットに負けた」について。

ネットコンテンツの増加やSNSの普及によって、ちょっとしたノウハウなどの情報はインターネットで調べれば事足りてしまうようになりました。特に検索しなくても、意識高めの友達がいればSNSからもよく流れてきます。

ここ数年Amazonの口コミでも明らかに増えてきているのが、「ネットで調べれば書いてあるようなことばかり」、「言いたいことは10ページ程度で収まりそう。こんなに長々と書く必要があるのか」といったものです。
実際、遠慮なしに言ってしまうと、ビジネス書の中にはエッセンスだけ取り出すとネットでちょっとしたブログで書けば十分、200ページ前後の本にする必要があるのか?といったコンテンツが散見されます。もはや、ネットだけでもOK。

やりすぎた『釣りタイトル』。

もう一つ、著者が指摘している面白いトピックがビジネス書の「タイトルの問題」です。

※P225引用
2000年代は「軽い本」が売れた時代です。各社が「ふざけたタイトル」「釣りタイトル」「過激なタイトル」を追い求めました。しかし、タイトルで煽った期待値以上に充実したコンテンツを提供することは、非常に難しいものです。羊頭狗肉的にガッカリするという経験を何度も積み重ねた結果、いまの読者はタイトルに「不感症」になってしまいました。

本書には触れられていませんが、私は、これもネットの影響が大きいと思っています。実のところ、本の釣りタイトルで何度もがっかりしている人は、そこまで多くないのではと思っています。何度もがっかりするほど、ビジネス書を大量買いする人は僅かですから。

むしろ、私たちが「釣りタイトル」でがっかりする経験を積み重ねてきたのは、ネットの記事によってではないでしょうか。
今でもネット上では、リテラシーが低い人は学習することなく釣られ続けていると思います。一方でリテラシーが高い人は、ネット上での釣りタイトルにうんざりしています。こういったリテラシーの高い層は、本を読む層とクロスしそうです。本屋でも「釣りタイトル」「過激なタイトル」を見ると、ネットで痛い目にあった経験を想起して、同じように警戒してしまうのではないでしょうか。ネットの釣り記事文化のせいで、出版業界はあらぬ方向から被弾しているような感じがしています。
まあ、出版業界もネットの釣り記事からノウハウを学んだ部分もあると思いますが…。

※P227引用
タイトルだけでも駄目、中身だけでも駄目。タイトルインパクトブームを経たいま、出版業界には両者を兼ね備えることが求められています。

そのため、これは書籍に限らずネット上のコンテンツも全く同じ状態になっているのかなと私は思っています。まあ、ある意味正常な状態なんですが…。

ビジネス書の未来はどうなるのか

これらを踏まえて、今後はどのような本が売れるのかという話になるのですが、著書では3つの展望が挙げられています。
それらについては、実際に著書を読んで頂ければと思いますが、結局のところWebではなく本という形態、すなわちWebでは表現しにくいものをしっかり攻略していくことと、時代の変化を見据えるということになりそうです。

例えば、手軽に情報を得られるのはネットの得意とするところなので、逆に本格的な内容の骨太な本が注目されやすくなってきているという点が本書では触れられています。
実際にビジネス書でも、内容、ボリュームがしっかりしているもので売れている著書が目立ってきている感じがします。著者はその例として、(ビジネス書と定義していいかはともかく)最近の『サピエンス全史』や、『応仁の乱』のヒットを挙げています。
Webで探しても見つからないレベルの情報であれば、今後も売れ続けるでしょう。

また、仮にサクっと読めるまとめ本でも、Naverまとめのようなキュレーションサイトたちには簡単にはまとめられない形式の情報や解説本は売れ続けるでしょう。
最近では、読む(理解する)のに苦労する名著を漫画にしたものが流行っています。『まんがでわかる 7つの習慣』や、『まんがでわかる ドラッガーのリーダーシップ論』といったものですね。これらについては、まさに本向きといえます。
ただの要約でしたらWebで十分ですが、ガッツリ漫画コンテンツになると、書籍(電子も含めて)が最適です。

海外の翻訳もののビジネス書が売れているのも、すでに売れている本を訳しているからというのもありますが、そもそも国内にはない文体や事例、芸風(?)により、ネット上で日本人が書いた記事で読めるものとは、大きく異なるからかもしれませんね。

ビジネス書よ永遠なれ。

2000年代は、確かにビジネス書はバブルでした。
あくまで当時はバブルであって、今後は正常化した安定した市場になっていくのでしょうか。
それとも、ビジネス書はズルズル衰退していくのでしょうか。
はたまた、何かのきっかけで次のバブルがやってくるのでしょうか。

どちらにせよ、私は1人のビジネス書ファン(結構オタクかも)として、これからも元気にビジネス書業界が生き残り続けけていくことを願ってやみません。

私と同じように、2000年代のビジネス書のブームを体験した人は、『平成のビジネス書 – 黄金期の教え』は、きっと当時を思い出して楽しめる著書になるでしょう。

平成のビジネス書 – 「黄金期」の教え (中公新書ラクレ)

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