子供を産んだら罰ゲームな国の処方箋『専業主婦は2億円損をする』【書評】

『専業主婦は2億円損をする』という強烈なタイトルだが、その中身は…。

『専業主婦は2億円損をする』(マガジンハウス)

日本は女性にとっては子供を産んだら罰ゲームという悲しい記事を見かけるようになった昨今ですが、実際のところは専業主婦だってやむなくなっている人も多いわけです。本書はそんな状況にトドメを指す…と見せかけて、日々辛い思いをしている女性の気持ちを代弁してくれている一冊です。

著者は、『言ってはいけない 残酷すぎる真実』や、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』などで知られる橘玲氏
本書は、今までの著書とは明らかににテイストやターゲット読者層が異なっています。
一方で、内容は全般的に今まで橘玲氏の著書で書かれていたものを、エッセンスとして読みやすくした上で、女性のキャリアに関するテーマに凝縮している1冊になっています。
特に、近著の『幸福の資本論』をベースにしたものが多く、理解を深めたい場合は併せてそちらを読むことをおすすめします。

専業主婦の事情も知らない外野が書くのか…と思われるかもしれませんが、こちらのWebで公開している本書のあとがき読むと、なるほどと思われるユニークな経験をしていらっしゃいます。
著者が、このテーマについて論じる意味があると私は思います。

『専業主婦は2億円損をする』あとがき

※上記サイトから一部引用

1980年代のことですからずいぶんむかしになりましたが、24歳で「でき婚」して長男が生まれました。共働きにならざるを得なかったのはわたしの年収が120万円しかなかったからで、ゼロ歳で公立保育園に入園させると、平日5日のうちわたしが朝の送りを3回、夜の迎えを2回担当にすることになりました。

前半から容赦ない専業主婦へのデメリットの列挙

本書の冒頭はかなりセンセーショナルです。

※P004引用
1.専業主婦はお金がない
2.専業主婦は自由がない
3.専業主婦は自己実現できない
4.専業主婦はカッコ悪い
5,専業主婦になりたい女子は賢い男子に選ばれない
6.専業主婦には”愛”がない
7.専業主婦の子育ては報われない
8.専業主婦は幸福になれない
9.専業主婦は最貧困のリスクが高い
10,ぜんぶまとめると、専業主婦にはなにひとついいことはない

なんというか、専業主婦を夢見ている人や、現在専業主婦になっている人が読んだら大激怒しそうなリストです…。

これらについて著書では、具体的なデータをこれでもかというくらいリストアップしています。
もちろん、専業主婦が全員ひどい状態なのかといったらそんな訳はないですし、人の幸不幸も様々なので、そのへんは差し引いて読めばいいと思うのですが、これでもかと言うほど具体的なデータをぶつけられるのでなかなかに説得力があります

本書のタイトル通り女性が仕事を辞めると、キャリアによるのですが「おおよそ1億〜2億くらいは損する」という試算は数年前からあちこちで耳にするようになっていて、それは確かに私もその通りだと思います。
(※具体的な数値や根拠の詳細については、著書を読んでもらえばと思います)
とはいえ、専業主婦になるなといっても、もともと「夢が専業主婦」という人はほんの一部で、今となっては、どちらかというと泣く泣く仕事を辞めて…という人が多いと思うんですよね。もちろん、その点についても、本書では書かれていますが…。

泣く泣く仕事を辞める女性が多いという現実。

例えば、共働き夫婦の母親は、ただでさえ時短勤務で社内でのいろいろなプレッシャーはあるわ、手取りは減るわ、キャリアルートから外されているのかどうなのかよくわからない恐怖に襲われているわ、とにかく大変です。もちろん、子供の世話や家事もプラスアルファで激務。
そこにつけて、お金のかかり方も半端ではありません。
シッターサービスを使ったり、外食や出来合いの食事の購入、学童保育のお金、夫婦二人で働いて子供の保育園や学校の送り迎えを考えると職場から近いところに住まないといけないので、家賃も上がります。
ちなみに、私の住んでいる中央区では、タワーマンションなどに住む共働きの夫婦が増えてきているようで、朝夕、スーツを着たパパママが子供の送り迎えをしている姿を見かけます。彼らはおそらく高所得者ばかりではなく、生活を回すために職場の近くに住むことを選んでいるという事情を抱えているのではないかと思います。

そうなると、母親が頑張って働いた収入の結構な部分が生活維持のために飛んでいってしまいます。おまけに場合によっては夫の手伝いをまったくあてにできないこともあります。男の側にも言い分はあって、悠長にイクメンなどやっていると、将来的な給与に大きく影響するというリアルがあります。
そんなことなら、夫には仕事に集中してもらって、女性が一旦仕事をやめようと思う気持ちも分かります。
将来2億円損する以前に、今の家庭生活が崩壊しちゃうと元も子もないですから。

そのような中で、著者の目的は、決して「専業主婦」を敵に回したりディスりたいわけではなく、これから結婚をして子供を生むという選択肢を考えている女性たちに向けて、今の日本の状況や、これからの読者の選択で何がおきるのかをよく考えてみて欲しい、またできる限り将来後悔してほしくないという想いが見て取れます。

正直、本書はかなり残酷な内容です。というのも、後述するように分析結果としての今の日本社会の状況に当面救いがないし、解決策として取れるアクションも結構ハイレベルだからです。

まえがきには、

P006引用
これから社会に出ていく女の子にも、キャリアを目指して働き始めた女性にも、子供が生まれて仕事を続けようか悩んでいるひとにも、そして(たぶん)専業主婦にも、ここに書いてあることはほぼほぼ役に立つはずです。

と書いてありますが、まあ、専業主婦の方が読んだら辛い感じがします。

仕事を続けても大変、仕事をやめても大変。

なぜ、専業主婦になるべきではない(仕事を辞めるべきではない)のかということについては、要点をまとめると下記のようになります。

・収入面ですこぶる(2億円)損をする。
・人口減で、これから女性は貴重なのでふんばればキャリアを積んで稼ぎやすい時代になる。
・世界的に専業主婦がダサいという文化が浸透してきていて肩身がどんどん狭くなる。
・専業主婦家庭の優遇制度は、今後なくなる。
・ほとんどの専業主婦は、自由や選択権がなく幸福度が低くなりやすい。

そのような状況にも関わらず、子供を生みたい女性にとって日本の企業がどうなのかというと、かなり残念な状態です。

最大の問題は、本書で解説されている社会学者の山口一男氏の研究結果です。

※P140引用
 それは、「日本の会社は残業時間で昇進を決めている」からです。「そんなバカな!」と思うかもしれません。でも就業時間を揃えると、大卒女性は男性社員と同じように昇進しているのです。

(中略)

 日本の会社は、幼い子どものいる女性社員のために、「マミートラック」と呼ばれる仕事を用意しています。「男性や女性と同じように働かせてはかわいそうだ」との配慮からですが、残業しなくてもいいマミートラックでは忠誠心を示すことができず、イエの一員とは認めてもらえません。当然、給料も減るし昇進もできないでしょう。
 これまで対等の関係だったのに、いきなり二級社員のように扱われ、同期ばかりか後輩にも追い抜かれていくというのは、優秀で真面目な女性ほど耐え難いでしょう。こうして彼女たちは、力尽きて、専業主婦になっていくのです。

そして、専業主婦になったあとも、日本では「丁寧な暮らし」の呪縛に襲われます。アメリカではハウスワイフ2.0というかたちで顕現しています。つらい…。

女性を苦しめる「丁寧な暮らし」の呪縛(なぜ働く女性の幸福度は低いのか))

子育て世代の専業主婦志向~日本でもハウスワイフ2.0が増加?

今、政府も企業もこの状態をなんとか変えようと動き始めていますが、社会が変わるまではまだまだ長い年月がかかるでしょう。

ただ、本書の中では専業主婦がボロクソに書かれていますが、注意しなくてはいけないのが、様々な調査結果の中には専業主婦の幸福度が、共働きの女性に対して高い(しかもかなり)という調査結果が散見される点です。

「女性の幸せに関する意識調査」結果概要

もちろん、現段階での専業主婦家庭と比べ、今後専業主婦になる家庭では、時代の変化もあり老後の貯蓄でかなり不利になるケースが多く、短期的には幸福度が高くても、老後の段階で後悔する可能性などもあり、一概に調査結果を肯定はできません。また、専業主婦だから幸福なのではなく、専業主婦が成り立つ環境(平均年収が高いなど)の家庭が相対的に幸福度が高い条件を揃えているという因果関係が逆の場合もあります。それでも、この数値は注目すべき結果ではあります。

変わらない社会で諦めずに戦う、二つの戦略。

さて、現時点で救いのようのない「子供を産んだら罰ゲーム」の日本社会で、女性もしくは、男性はどのように動けばいいのでしょうか。著者は二つの「戦略」を提案しています。

一つ目は「子育てを外注するという戦略」

育児と仕事の両立がしんどいということが悩みの根幹なので、思い切って子育てを自分でやらないという方法です。
一番、分かり易いのが「実家の両親にお願いする」という方法です。しかし、ほとんどの家庭は実家を頼れません。そのためもう一つの選択肢は「お金を払って家政婦を雇う」が浮上します。
日本で家政婦を雇うと時給3,000円くらいかかり、平日昼間には来てもらえても、本当に必要な夜の残業時に対応してもらうのは難しいことがほとんどでしょう。金銭的にも、普通の家庭では持たないでしょう。最近、シェアリングエコノミー形式で低額のサービスも増えてきましたが、まだまだ。

最新のベビーシッター利用実態調査

そこで著者の提案が、「外国で子連れで働くという裏技」です。
香港やシンガポールでは住込みの家政婦を雇うのが一般的で、日本に比べてかなりリーズナブルな金額で利用可能です。同様に東南アジア諸国でも、一般的です。
著書では、子育てに関わらず、認知症になった親の介護の例も載っています。

二つ目は「会社で働かなくていいという戦略」

著書で、説明が割かれているボリュームから、どちらかというと、こちらの戦略のほうが著者が推奨する方法に見えます。
これは、夫婦二人で会社に所属せずに「フリーエージェント」になって働きましょうということです。(※フリーエージェントとは、ざっくりフリーランスと考えてもらっていいと思います)
問題の根源が「滅私奉公」を社員に強いる、日本の会社にあるのであれば、会社で働かなければいい。

※P176引用
(1)人間関係のトラブル
(2)忙しくて時間がない
(3)仕事に必要なスキルが足りない

「フリーエージェント」は、この3つを同時に解決できる(おそらく)唯一の戦略です。

フリーエージェントは、嫌な取引先に対しては仕事を断ればいいので、人間関係のトラブルを避けられます。
会社勤めだと会議や人付き合いに忙殺される時間が非常に多く、これを削減できると具体的に年間3ヶ月ほど時間が浮く(夫婦二人で6ヶ月)。※その根拠は著書を御覧ください。
仕事はスペシャルなことに専念できる。

そのため、子育てとの両立もし易いし、長期的に社会で活躍もしやすいとのことです。
このパートでは、年を取れば取るほど、技能がプロフェッショナルから中途半端なものにならざるをえない日本の会社のシステムについて解説してあり大変面白いです。
また、フリーエージェントとして働く編集者の事例が、スペシャリストがなぜ強いのか分かる具体的で痛快な好例になっています。(現実は、そこまで痛快にはならないことが多いですが…)

フリーエージェント戦略を実現できる人はどんな人なのか

さて、私も実際にフリーエージェントで2歳の子どもを育てている身ですが、体験として本書に書いてあることは真実だと思います。現実に、子育てとの両立がかなり楽になります。
私の家庭は、こどもが医療ケア児です。一般的な家庭の子育て戦略難易度が、Hardだとすると、Very Hardくらいになるはずなのですが、私がフリーエージェントなので、大体Hard〜Normalくらいまで難易度を下げられています。
朝昼晩の家の食事を私が用意したり、病院の付き添いなど(8つくらいの診療科を受診していているので回数が多く、会社の半休などだと絶対無理)一通り育児参加できます。

さて、いい側面だけ見ると大変魅力的なフリーエージェント戦略ですが、当然誰でも簡単になれるものではありませんので、本書に書かれていないその点について、ちょっと補足したいと思います。

(※余談ですが、著者の橘玲氏は、著書の中でいつも誰でも実現可能な戦略ではなく、「残酷な社会の中で」あくまで工夫をした人だけが利用可能な「抜け道」「裏技」を紹介するスタンスなのです)

まず、大切なのは、子どもを妊娠したので、「はい!フリーエージェント」になります。といっても遅いという点です。
スキルがなければフリーエージェントとしての仕事はもらえないので、会社勤めのタイミングでフリーエージェントとして独立するためのスキルを事前に身に着けておく必要があります。
これは事前にリサーチしておいたほうがいいです。専門分野だけでなく、そのなかでどのような勉強を意識すると独立後、楽なのかなど。どのような人間関係を構築しておけなくてはいけないのかなど。

何も準備しないで、子どもが生まれて、フリーランスで仕事を探しても、まず今の日本では仕事のルートが殆どありません。クラウドソーシングで仕事を探しても、基本的に単価が安すぎて生活の足しにすらなりません。(実際に、そういう方が多い感じがしていて気の毒です…)いきなり飛び込むとこちらのグラフの、自由業系フリーランスのボリュームゾーン年収200万円以下に突入します。

フリーランスの年収

フリーランスの年収と労働時間|日本初の実態調査から読み解く

基本的には、前職のツテで仕事が貰える状況を作るのが良いのですが、仕事をもらえる発注元が前職の1社だけだと、依存状態になって「人間関係のトラブル」から脱却できないので、複数社と付き合える状態を準備する必要があります。

幸いなことに、最近では「フリーエージェント人材用のエージェントサービス」が国内でも形になってきています。システムエンジニア系は山ほどあるのですが(常駐案件ばかりなのが残念)、エンジニア以外の分野でも、CARRY MEや、Warisなど、幅広い職種でフリーエージェントに仕事を仲介するサービスがワークしてきています。まだ常駐案件が主力なので、在宅や時短の案件が増えていくといいですね。

こういったサービスを見ながら、具体的にどのような職種やスキルが、独立後仕事になりやすいのか調べつつ、会社員時代での身の振り方を考えるのも良いでしょう。

ゼネラリストは本当に悪いのか

また、著書ではゼネラリストをボロクソに書いていますが、私は会社員のうちにプロフェッショナルと、ゼネラリストの中間のような水準の能力を身につけてから独立するのが一番良いと思っています。というのも、発注者がゼネラリストである以上、彼らの仕事やロジックを理解していることがビジネス上の円滑さや契約に大きく関わるからです。
フリーランスとして独立した上で、プロフェッショナルな部分に磨きをかけていくのが、最終的には受注額も大きくなり、成功しやすいと思います。

私自身が、そういったゼネラリスト系の経験を会社員時代にまったく持たずに独立してしまったので、こういったスキルを身につけている方は羨ましいですね。

最後にもう一つ、本書では夫婦でフリーエージェントが推奨されていますが、二人とも同時にフリーランスを目指すと、売上や状況が安定するまでかなり不安定です。(二人フリーエージェントで長期安定している人同士で結婚すればOKですが)妻の負担は増えますが、個人的には旦那が正社員、妻がフリーエージェントが王道の安定パターンな気もしています。(旦那が家事を手伝ってくれる機会は激減すると思いますが…)

厳しい内容ですが、日々苦労している女性の気持ちを代弁してくれている著書です。

ジェンダーギャップ指数が144カ国中111位という男女の社会格差が埋まらない日本の何が問題なのかを理解したいという方、子育てと仕事の関係を考えるとなんかもやもやするという方は、男女問わず、ぜひ読むことをお勧め出来る一冊です。
具体的に「フリーエージェント」としての一歩を踏み出すのも良いですし、今の生活を続けるにしても、理不尽な社会背景をきちんと言語化して理解できるだけでも、心に余裕と救いができるでしょう。

『専業主婦は2億円損をする』(マガジンハウス)

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