ファンベースとリピーター施策は全然違う。『ファンベース』【書評】

『ファンベース – 支持され、愛され、長く売れ続けるために』(ちくま新書)

全然違う「リピーター施策」と「ファンベース」

本書に目を通して、「あ、リピーター施策の話ね」そう思った方は、全然著書の内容を理解していないと思います。

本書『ファンベース』に関しては、読後に、スマートに「ファンベース」と「リピーター獲得」の何が違うかを説明できるかどうかが理解の境目になるでしょう。読後も、うまく説明できない人も多いのではないかなと…。

ファンベースでの「ファン」の定義は以下の通り。

※P8引用

そういう意味において、ボクは「ファン=支持者」だと思っている。

もう少し言うと、ファンとは「企業やブランド、商品が大切にしている『価値』を指示している人」と、この本では定義したい。

それを前提に、本書の内容を乱暴に要約すると「ファンを大切にしよう、ファンを育てよう、なぜならそのほうがビジネスが長期的にうまくいくから」という、特に新しくもなく、直感的にもそれはそうだよねという話ではあります。

一方で、本書の持つ高い価値は概念そのものではなく、その概念の今日的な意義を理解できることと、深掘りが中心と言えます。価値を列挙すると以下の感じ。

  • 現代の文脈の中で、ファンを育てることの大切さがより一層高まっているという背景。
  • ここ数年の中での、ファン育成施策の変化と、具体的な事例。
  • どのような形でファンが、ビジネスの好循環につながっていくのかという具体的なイメージ。
  • コアファンと、ただのリピーターの違いについての多角的な解説。
  • 各種関連する、豊富なデータ。

また、著書の中身も平易で分かりやすいにも関わらず、ボリューム感もあります。プロモーションについても、短期でバズった施策をいくら取ったところで、効果が薄いという現場感のリアルな話も書いてあり、マーケ業界の人間からすると、「あー分かる分かる」という話も多いです。

ファンベースという考え方が必要になる背景

ファンベースの中で特に意識する必要があるのが時代背景の整理です。著者は大きく3つの理由を挙げています。

1.日本社会の変化により、新規顧客はどんどん減っていく

・人口急減→毎年100万人規模で人口が減っていく

・ウルトラ高齢社会→新規の商品に手を出しにくい

・人口の約半分が独身→結婚・妊娠・子育てという「ライフステージの変化による新しい需要も減る」

 

2.超成熟社会が新規顧客獲得をより困難にしている

・選択肢が多すぎると、人は「買うのをやめてしまう」

・USPはすぐ追随され、陳腐化する→USPが魅力的であればあるほどすぐ真似される

 

3.情報環境の過酷化で新規顧客へのリーチはより困難に

・「世界中の砂浜の砂の数」より多い情報が世の中に流れている

・エンタメ過剰もキャンペーンを目立たなくさせる

・SNSもごく一部で盛り上がっている(だけ)

 

これらを理由に、新規の顧客獲得のプロモーションばかりにコストをかけるよりも、既存のファンである顧客が離れるのを減らしたり、ファンが新しい顧客を連れてくる重要性が高まっている(場合によってはコストが低い)というのが、著者の主張になります。

これらについては、全くもってその通りなのですが、裏を返すと、極めて成長性の高いサービスの場合、ファンベースに力を入れるべきかどうかは怪しいということでもあります。具体的には、ベンチャーキャピタルから資金調達をして急成長しているようなスタートアップ企業などで、これらについては、新規顧客をハイスピードで獲得していくのが必須だし、プロダクトの特性上獲得しやすいこともあるので、ファンベースなんてやっているどころではないということも、現実的にありえます。

実際、私自身が、複数のスタートアップの成長過程を見ていて、「ファンベース」どころか、基本的な顧客サービスが競合よりも問題だらけであっても、成長スピードの速さで認知度をあげて、マーケットの重要なポジションを獲得するというケースが多々ありました。競合となる会社が、丁寧に顧客に向き合っているのに、ボロ負けしていくという悲しいケースもあるんですね。

ファンづくりや、彼らの言うことに丁寧に耳を傾けるところに企業カルチャーを持っていくよりも、多少の不満や顧客離れは無視してでも拡大するだけして、市場制圧後に安定してきてからファン施策に手を入れたほうが効率がいいというのは身もふたもないですが現実でもあります。

とはいえ、一旦ゴリゴリのカルチャーができると、そこから「ファンベース」のカルチャーを作っていくのは大変なので、成長期からも少量は投資をしていくのが正しいのでしょう。実際に、それで苦労している企業が多いのではと思います。

また、商品・プロダクトに関して、どうしても向き不向きがあります。日常生活に密着したり短いサイクルで利用するような製品の方が、ファン化の施策を打ちやすいですし、市場規模が大きい商品の方が、ファンベースの投資価値も得られやすく感じるため、どうも大企業の施策というイメージを感じてしまう部分もあります(実際に事例は大企業や、有名なサービスが中心です)。

実際はそんなことだけではないはずなので、もう少しニッチな事例をぜひ知りたいところでした。

『ファンベース』のアプローチ「ファンの支持を強くする3ヶ条」

本書で定義されるファンは、実際にどのくらいの比率がターゲットになるのでしょうか。

※P90引用

ボクの感覚では、パレートの法則ではないが、やっぱり20%くらい(40人クラスだと8人)。もっとすごく気が合って親友になる人は、20%中の20%、つまり、だいたい4%(40人クラスだと2人弱)くらいかと思う。

大切にしている価値を支持してくれるファンも、だいたいそんなものだと思う。

前者がファンで20%くらい。後者がコアファンで4%くらい。

また、全員に好かれるように行動してはいけないというのも大切で、

※P90引用

「全員をファンにしよう」とするとファンができにくいし、今いるファンが離れる場合もある

と指摘しています。

その上で、「ファンの支持を強くする3ヶ条」という形で、具体的なアプローチの仕方に入っていきます。

1ヶ条. 「共感」を強くする(企業・商品・ブランド自体の価値を上げる)

A.ファンの言葉を傾聴し、フォーカスする

B.ファンであることに自信を持ってもらう

C.ファンを喜ばせる。新規顧客より優先する

 

2ヶ条.「愛着」を強くする(ブランドや商品を他に変えがたいものにする)

D.商品にストーリーやドラマを纏わせる

E.ファンとの接点を大切にし、改善する

F.ファンが参加できる場を増やし、活気づける

3ヶ条.「信頼」を強くする(真の意味での企業の評価・評判を上げる)

G.それは誠実なやり方か、自分に問いかける

H.本業を細部まで見せ、丁寧に紹介する

I.社員の信頼を大切にし「最強のファン」にする

その後、さらに一歩進んで「ファンの支持をより強くする3つのアップグレード」に入ります。

1.「共感」→「熱狂」される存在になる

J.大切にしている価値をより全面に出す

K.「身内」として扱い、共に価値をあげていく

2.「愛着」→「無二」の存在になる

L.忘れられない体験や感動を作る

M.コアファンと共創する

3.「信頼」→「応援」される存在になる

N.人間をもっと見せる。等身大の発信を増やす

O.ソーシャルグッドを追求する。ファンの役に立つ

 

これらのアプローチについては、事業の大小に関わらず使える考え方になっており、「ファン」との関わり合い方として、辞書的に手元においておきたい、アイデア集、実例集になっていて価値が高いものです。「ファン化」に関わる著書の中で、整理、リストアップされたものとしては、最高峰ではないかと思います。保存版です。

その後、具体的な短期中期策などをふくめた、「ファンベース」の全体構築の話に入ります。短期的なプロモーションと、中長期的なファン育成がどのような関係になっているのか、どのようなパターンがあるのかなど、詳細に解説がされており、これもイメージが湧きやすく親切です。

で、「リピーター施策」と「ファンベース」は何が違うの?

さて、本書の理解で最も重要なものは、一般的に言われている「リピーター施策」と「ファンベース」の考え方の何が違うのかです。

ファンベースの中で、その考えの特徴を端的に表しているのは、p142の部分…

※P142引用

ファン・コミュニティで稼ごうとしてはいけない

 ファンが集まるコミュニティ、というと、どうしてもその場で拡販したいのと思うのが人情だ。たしかにその場で拡販できれば、LTVは上がっていく。

 リアルなファン・イベントの場合は、それでも構わない。特に、そのイベントでしか手に入らないグッズなどを用意すると盛り上がるし、いい記念になる。ただ、ネット上のファン・コミュニティや、リアルな会員組織の場合、「Don’t Sell to the Community / Sell Through the Community_という考えを意識したほうがいい。つまり、ファンには売るな、ファンを通して外に売れ、ということだ。

(中略)

これを「Sell to the Community」にすると双方を失う。そのあからさまな「囲い込み」と「刈り取り」に、ファンは引くし、ファン以外への広がりもなくなってしまう。

「リピーター施策」でのあるあるは、「アップセル」(より価格の高い商品)や、「クロスセル」(関連性の高い商品)へ消費者をうまく誘導して、気がつけば商品の購入頻度や、購入単価が上がっているという施策です。また、システマティックにリピート購入しやすい体制を整えたりといったものも含まれます。

「ヘアサロン」「ネイルサロン」「ブライダル」などの業界は、こういった手法がかなり広がっている分野でしょう。このような施策を巧妙に進めていくと、確かに売上も増えていくし、リピーターも出来ていくのですが、あるタイミングになるとじわじわと顧客離れが起きます。この閾値は、測れないものだし、事業上、かなり長いスパンで発生するので経営上の判断も難しい。

一般消費財では、「マヨネーズやケチャップなどの口を気がつかない程度に広げる」など、ちょっとしたデザイン変更などが有名です。気がつかないうちに消費量が増えるので、リピートは増えます。しかし、こういったことをやりすぎると当然どこかで歪みが起きる。

モバイルゲームや、Webサービスなど、いわゆるスタートアップ、ベンチャー業界では、上記のような工夫を「グロースハック」という言葉で、UI、UXに手をいれていくことで、ユーザの課金率、退会率、エンゲージメントを改善するといった手法が洗練されています。分かりやすい例で言うと、Webサービスの「退会」の手続きをすごくわかりにくくして、退会者を減らすといったものなどが有名です。これらの中には「ユーザのファン化」とは対立するものも多いのが現状です。

これに対して、ファンベースの目的は、短期的な売上や拡販ではなく、ファンになってくれる人たちが顧客離れすることなく長期的なお客さんになってもらうこと、(その過程で、「アップセル」や「クロスセル」が起きるのはあくまで副次的な結果)また、彼らが口コミで新しいお客さんを連れてってくれること、さらには、ファンとの関係によって、新たな価値のある商品の企画や、プロモーション自体を共創していくことができるということに集約できるでしょう。

今日的に、一番大切なのに、一番実施されない『ファンベース』

さて、理屈としては大切というのは分かるのですが、この「ファンベース」を企業で実施するには「壁」があります。

先程述べたように、短期的に「売上」や「利益」に直結する施策と、「ファンベース」施策は、対立する部分があるというのが一つ。

また、そもそも「ファンベース」施策によって、どのくらい売上や利益に貢献したのかという証明や、因果関係の把握が難しい。例えば、誰が「ファン」に該当する人たちで、その人たちがどのくら新しい顧客を紹介したかなど、容易には把握できません。しかも成果が出るまでのタイムスパンが長い

そのため、「ファンベース」に取組むのは企業としては、相応の覚悟が必要になります。どちらかというと合理的な事業計画というより、ビジョンの水準での変革が必要でしょう。「できるところから少しずつ」みたいな始め方をしても、すぐに「短期的な成果」「インパクトのあるプロモーション」に流されてしまいます。

それゆえに、最後は

※P255引用

第6章 ファンベースを楽しむ(もしくは実行の際のポイントの整理)

いったい世の中に、ファンを笑顔にすることほど楽しい仕事が他にあるだろうか

という形で、「楽しむ」というテーマで締められています。実際に、「ファンベース」に取組むには、「売上」や「利益」などといった直接的な数値から遡ったKPIとは、全く別なKPIを設定して取組むことが必要になるでしょう。

そんなものは非合理だと、思われるかもしれません。

しかし、圧倒的なプロダクト(商品)力や、資本力でなかなか正面から勝負ができない、中小企業や、個人事業主は、一見非合理に見えるものが合理的であることに気が付き始めているように感じます。「遊ぶように楽しんで事業をやっている会社やサービス」が独自の立ち位置を持って活躍してきているケースが、中小企業や個人事業主の中で明確に増えてきており、もはや時流になりつつあるともいっていいでしょう。

本書「ファンベース」は、「お客様」や「消費者」との取引ではなく、「ファンと一緒に楽しんで事業を創る」という新しいビジネスのあり方を学ぶのに最適な一冊です。

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