ギグ・エコノミーの正しい歩き方【書評】『ギグ・エコノミー 人生100年時代を幸せに暮らす最強の働き方』

ギグ・エコノミーで成功している人は何をしているのか

ギグ・エコノミー 人生100年時代を幸せに暮らす最強の働き方(日経BP社)

ギグ・エコノミーとは、アメリカでは2015年くらいから広まってきている概念ですが、日本では聞いたことがない人も多いでしょう。

本書は、「ギグ・エコノミー」という言葉がタイトルに入った日本ではじめての著書です。本書内では、ギグ・エコノミーという概念を知っていることはある程度前提としている上で、ギグ・エコノミーの中で成功するには、私達がどのような知識を持ち、どのように振る舞えば良いのかという、実践的な内容になっています。

そもそもギグ・エコノミーとは何か

日本の読者にとっては、そもそもギグ・エコノミーとは何かというところから説明が必要になると思いますので。簡単に説明します。
ギグエ・コノミーの「ギグ(gig)」と言う言葉は、そもそもジャズで特定のライブ、セッションのためだけに、一時的に集まり解散するその場限りのでの演奏を意味するところを起源とします。
「ギグ・エコノミー」は、この「ギグ(gig)」という概念をあらゆる経済活動に適用させたもので、「ジャズの演奏のように、特定のプロジェクトのために一時的にメンバーで集まって仕事をこなすようなことが一般化していく経済を指します。一時的に集まるメンバーというのは、所属する組織を問わず、バラバラの専門分野の人間で構成されます。

アメリカでは、どうやら「ギグ・エコノミー」=「インターネットを通じて比較的短期の仕事を請け負う形態」といった文脈で使われることが多いようです。端的に、Airbnbや、UberといったCtoCサービスを利用した経済活動を指すことに使われていることもしばしばありそうです。
一方でこの本の著者、ダイアン・マルケイ氏にとっての「ギグ・エコノミー」は、テクノロジー分野に限定したものではなく、もっと広い文脈で捉えられています。残念ながら著書内に「ギグ・エコノミー」の定義は明確になされていないようなので、巻末の訳者あとがきから本書内でのギグ・エコノミーのニュアンスを引用します。

※P259引用
著者の言う、ギグ・エコノミーは、終身雇用と無職を両極として「そのふたつに挟まれたさまざまな労働形態を幅広く含む概念」である。「派遣労働、フリーランス、自営業」などをしている労働者が含まれるのはもちろんだが、正社員であっても転職希望者が増えたり、副業を推奨する企業が現れたりと、ギグ・エコノミーはすでに着実に広がっているのだ。長寿化で定年後も働く人が増えていることも忘れてはならない。

この著書で学べるのは、ギグ・エコノミーで食べていくための方法

本書、『ギグ・エコノミー』の主要な内容は、ギグ・エコノミーにまつわる社会分析ではなく、実際にギグ・エコノミーを読者がうまく渡り歩くためのガイドです。具体的に「ギグ・エコノミーの10の成功法則」として、全10章で、そのノウハウを提供しています。

1.みずからの成功を定義する。
2.働く場を分散させる
3.生活保障を設計する
4.ネットワーキングをせずに人脈を作る
5.リスクを軽減して不安に立ち向かう
6.仕事(ギグ)の合間に休みを取る
7.時間への意識を高める
8.柔軟性のある家系を組み立てる
9.所有からアクセスへ切り替える
10.老後の資金を貯める

これらが、10の成功法則になるのですが、その詳細は実際に本書を読んで確認してもらえればと思います。
また、成功法則に加えて、これからのギグ・エコノミーに向かう社会に向けての制度的な提案もなされています。

率直に言うと、これらは、フリーランスの成功法則と言っていい内容ですが、その射程は会社に努めつつギグ・エコノミーでの働き方を準備するところまで及んでいます。

あくまでアメリカでの「ギグ・エコノミー」の成功法則ですから、私は、日本では使えない部分が多いのではと思って読み始めたのですが、良い意味で期待を裏切られました。大部分が日本の文脈でも役に立つものばかりなのです。10年、ギグな働き方をしている私が言うのですから間違いありません。

また、本書を読んでいると、まるで今の日本の社会をそのまま分析しているのと錯覚するような内容です。終始「終身雇用」という言葉も頻繁に使われています。実のところ、米国であっても務める企業の規模が大きくなればなるほど、雇用者の平均勤務年数が長くなっていくようで、私達が想像するほど、日本型、米国型とはっきり会社の仕組みが明確ではないのかもしれません。
労働者が、今の雇用制度の中で抱えている課題や家庭の問題なども、ほぼリンクしていると言えます。

ギグ・エコノミーが広まったのは企業によるものなのか?

本書の中では、企業が、正社員雇用ではない形でのギグな人たちを積極的に使うようになった理由として、雇用者に対する社会保障費の負担が限界に達しており、それらを削減したいというインセンティブについて何度も触れています。

しかし、そうであれば、企業は常にコストを減らすための工夫をしているわけですから近年に、大幅にギグ・エコノミーが浸透している理由としては弱いように感じます。

社会背景としては、社内でコミュニケーションの取りやすい統制した正規雇用者でプロジェクトを遂行することによる、柔軟性や、スケールメリットなどが、時代の進展とともに合わなくなってきている面があるのでしょう。
具体的には、ビジネスにおいて、知識や技術の専門知識が細分化しているのと、変化のスピードが早くなっており、外部の専門家と積極的にチームを組みながら、短期のサイクルでプロジェクトを回していったり、社内の人材に教育の機会を与える必要が出てきているのでしょう。

また、コミュニケーションツールなどの進展や、ツールの共通化が、外部メンバーとのプロジェクトの共同進行をスムーズにしている面もあります。
労働文化の異なるあらゆる国で、全世界的に同時にギグ・エコノミー化が起きているということは、共通するテクノロジーの発展の影響が大きいことは間違いないでしょう。

さらに、私の感覚としては、一般的な正規雇用の方々からは(意味不明な)フリーランスっぽい人たちが、徐々に社会に認知されているというのも大きいと思います。ここ数年で、明らかにフリーランスに発注する企業の態度が変化しているのを体感しています。

私たち一人ひとりの働くことに対する考え方の変化

企業だけでなく、ギグ・エコノミーに参加する私たちの態度の変化も無視できません。
共働きが当然になってきている社会背景の中で、子育てや家族との生活と仕事を両立させたいというニーズは激増しています。
既存のフルタイム雇用の仕組みの中では、思うように仕事と生活のバランスが取りにくい状態が続いています。働き方改革の名の下に、企業も変化を進めていますが、まだまだ途上と言わざるを得ません。
上記の背景から、金銭や組織での活躍以上に、時間やストレスコントロールでの自己裁量を持った働き方を望んでいる人たちが増えているのも大きいでしょう。

さて、ギグ・エコノミーが進展した社会はどこへ向かっていくのでしょうか。率直に言えば、独立したフリーランスのようなワーカーは、組織が守ってくれないわけですから、スキルが低ければ報酬も低くなりシビアな面があるのは間違いありません。逆に、高スキルのフリーランスは、引く手数多で仕事に困ることはなく、報酬も十分になります。弱肉強食の労働市場の側面がある点は否定できないでしょう。もちろん、彼らには大きな企業に努めている人たちのような手厚い社会保障もありません。

結局のところ、「自由裁量は少ない代わりに、保証や安定性のある仕事」「自由裁量が多い代わりに、安定が難しい仕事」どちらの方がより魅力的に感じるか。個々人の趣向や、技量、実際に市場に存在する仕事のバランスなどでの綱引きになるでしょう。

逆に会社組織の方がスケールメリットが働きコストが低くなる仕事も多いでしょうから、全てがギグな働き方に取って代わられることもないでしょう。

ギグ・エコノミーに生きる人と、フルタイム従業員との最大の違い

いろいろ書きましたが、「ギグ・エコノミー」を楽しんでいる人にとって一番重要なのは下記の点なのです。著書から引用します。

※P42引用
ギグ・エコノミーで成功するには、フルタイム従業員に限らずさまざまな働き方をするとともに、仕事に対する意識を”従業員思考”から”チャンス思考”に切り替える必要がある。この二つの考え方は、次のように対比できる。

従業員思考 ー どんな職に就こうか?
チャンス思考 ー どんな仕事をして、どんな価値を生み出そうか?

職種や組織ではなく、社会に対して何がしたいのか?ということに常に向き合いながら行きていくことが求められるのです。結局のところ、「より充実した人生を送るためにどのように生きたいのか?」という問いに対する、一人ひとりの選択の集積が、ギグ・エコノミーのうねりを生み出しているのでしょう。

ギグ・エコノミー 人生100年時代を幸せに暮らす最強の働き方(日経BP社)

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