好きなことで食べていくヒント【書評】なめらかなお金がめぐる社会。 あるいは、なぜあなたは小さな経済圏で生きるべきなのか、ということ。

好きなことで食べていく

『なめらかなお金がめぐる社会。 あるいは、なぜあなたは小さな経済圏で生きるべきなのか、ということ。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

シリアルアントレプレナー、家入一真氏の著書です。
自分のやりたいことを他人から否定されずに取り組める。それで食べていける。そんな人たちが増えていったら素敵なことです。

生きづらい現代から救ってくれる「小さな経済圏」による新しい生き方

本書では、「小さな経済圏」が増えていく社会について一貫して論じられており、著者の思いと、CAMPFIREといった著者の関わるサービスを中心とした取り組みについて論じられています。

著者が願っているのは、「選択肢が多い社会」で、さらにその選択肢を選ぶため、実現するための障害を少しでも減らしていくことなのだと感じます
このことは、価値観が多様化しますよといった単純な文化面の話ではなく、「現実的な経済圏」としてお金がまわる社会です。関わる人達が自分たちの好きなことや得意なことを活かして食べていくことができる、そんな社会の輪郭と、著者の思い、取り組みが本書『なめらかなお金がめぐる社会。』には書かれています。

著者の述べる「小さな経済圏」の定義は以下のものです。少し長くなりますが引用します。

※P7引用
 かつての行動経済成長期のように「大きなことはいいことだ」と成長・拡大を続けることを目指す既存の社会や仕組みを「大きな経済圏」と呼ぶならば、今、CAMPFIREで起こっているプロジェクトのような、個人や地域レベルで小さな繋がりを持ち、支え合っているコミュニティのことを、僕は「小さな経済圏」と呼びたい。

そして、その個人の大小は関係ない。例えば50人のフォロワーしかいない人でも、その中の5人がその人の何かに価値を見出してお金を払ってもいいと思えたなら、そこには小さな経済圏が生まれる。そうして50人しかフォロワーがいなくても、自らの価値を対価として彼らに提供し、経済が回る。

 これらの経済圏は、名前の通りひとつひとつのサイズはとても小さいものだが、その役割はとても大きい。そして、この「小さな経済圏」こそが、何かと生きづらくなった現代の、新しい生き方の鍵を握っている。

「小さな経済圏」を生み出すのに必要なクリエイターの力

これは、関係する人たちからの共感を得ることのできるクリエイターが経済圏を作ることのできる社会です
個人のクリエイティビティが、換金可能な社会とも言えます。

彼らが、ファンを集めたり、資金を集めたりするための手段として、著者は自身が運営する、クラウドファンディングサイトのCAMPFIREを引き合いに出しています。

クラウドファンディングの仕組みについては詳細は触れませんが、簡単に説明すると、クラウドファンディングとは自分のやりたいプロジェクト、作りたいモノなどの提案を行い、Web上からお金を集める仕組みです。カテゴリを大別すると、そのままお金を寄付してもらう寄付型と、これから作るサービスや商品を事前に買ってもらう(予約販売)購入型、また将来的なリターンを念頭に置いた投資型があります。

こういった、個人のクリエイティビティを簡単に換金する(つまりお金を稼ぐことのできる手段)というのは、ここ数年で明らかに劇的な進化を遂げています
「CAMPFIRE」をはじめとする数多くのクラウドファンディングサイト、著者も関わっている一瞬でECサイトを作ることができるサービス「BASE」、記事などのコンテンツを簡単に課金する仕組みを持つ「note」であったり、「DMMオンラインサロン」のような月額課金のファンサービス用のプラットフォームなど…、歴史は古いものの未だに強固な「まぐまぐ」のような有料メールマガジン配信サービスもあります。また、「AnyPay」のような簡易決済サービスにより、圧倒的にイベントや個人間のビジネスも行いやすくなっています。

Web文化の成熟や、Fintechの流れなど様々な要因により、個人がネットを利用してクリエイティビティで「食べていく」流れは、同時多発的に進んでいると言えます。

評価経済の弊害

本書を読んでいると誤解してしまいそうですが、著者が考えているのは単純な弱者救済とは異なるように感じます。その点が本質的に本書のタイトルである「なめらかなお金がめぐる社会」の「なめらか」な部分とつながっていきます。
「なめらかな社会」では、今までチャンスの少なかったマイノリティに、チャンスを与えるものではありますが、マイノリティ全員にチャンスが与えられるとは限りません。

本書で提案される「小さな経済圏」で重要なのは、端的な「商品サービスの質」や「コスパ」などではなく、プロダクトを創る人の信用や共感の力が大切になります。そういった意味では、信用力や、共感力を作り出せない人はこのような仕組みの中でも弱者になってしまいます
実際、著者も評価経済の弊害としてそのことを指摘しています。

※P85引用
ただし、僕としても評価経済の持つ可能性に惹かれる一方で、それがもたらす弊害も危惧している。評価経済においては先程のUberやAirbnbの話のように、評価が低い人からどんどん切られていってしまう事態が起きている。そして近い将来、各社が持っている評価情報のデータベースが統合されていくのは確実だろう。
(中略)
そうなると、僕たちは何をするにも「いい人でい続けないといけない」という同調圧力が働く時代になっていくと思っていて、根はいい人なのに性格が素直じゃないとか、正義感が強すぎるあまり人と衝突することが多い人とかが、本当に生きづらい社会になるはずだ。

合わせて、このような社会になると、共感を生み出すことのできる技能というもの重要になります。これはコミュニケーション能力とは重なる部分もありますが少し異なります。
自分の抱えていた課題ややりたいことに共感してくれる人を生み出せるかどうかを達成する力は明らかに「小さな経済圏」で生きていくには重要で、大雑把に言えばマーケティング力みたいなものですが、その中でも人を巻き込んで共感してもらうことに特化した力になります。

こういった共感する人を生み出す方法については、高度なマーケティング技術の話だけでなく、pha氏との対談の箇所で誰もが一歩を踏み出せるヒントを与えてくれていて希望を感じます。

※P126引用
家入:phaさんもそうですけど、いきなり「こういう生き方をしたい」と言っても、だれも最初は応援してくれないと思うんです。なので手始めにだれかを手伝うことから入っていくと、いつか自分がやりたいと思ったときにその人たちが手伝ってくれるんじゃないかなと思いますね。
(中略)
だったらまず、同じような活動をしている人の近くでゆるっと手伝ったり、そこに属してみたりとかしながら、少しずつ自分の経済圏をつくっていけばいいと思います。

「小さな経済圏」が広がった社会は幸せなのか??

さて、今の社会の流れからいくと、スピードと規模はどうあれ、徐々に「小さな経済圏」は広がっていくように感じます。「小さな経済圏で稼いで生きていく可能性がある」という感覚が広がっていくと、「大きな経済圏」でどうしようもなく辛い思いをしている人にとっては大きな救いです。
一方で、「小さな経済圏」が広がっていく選択肢の多い社会は、本当に多くの人を幸せにするのでしょうか。

小さな経済圏が増えることで、好きなことを実現できる人は徐々に増えていくでしょう。一歩を踏み出してチャレンジした中で、好きなことを実現できる人は全体の一握りかもしれませんが、その一握りの人たちは、世の中に対して自由に生活している人たちを可視化させていくことになるでしょう。
そうなると、「大きな経済圏」の中から、「小さな経済圏」で挑戦したい人たちに、上から目線で「 人生には我慢が必要だ」「食べていくには苦労がつきものだ」「嫌なことから逃げてもうまくいかない」と冷や水を浴びせるのも難しくなっていきます。
何しろ、小さな経済圏でそれなりに楽しそうな人たちが増えてくるし、実例を持って反論されてしまいます。「大きな経済圏」での生き方しか知らない、できない人たちにとっては、その生き方が時に自分たちの人生の否定に感じることもあるでしょう。

「大きな経済圏」は、少なくとも日本国内に限定すれば、これから縮小していきます。大変皮肉なことですが、大きな経済圏で「我慢して頑張っている人たち」がジリ貧になり不幸になり、小さな経済圏で「好きなことをしている人たち」が幸せになっていくような流れが起きるかもしれません。我慢が報われないのは辛いことです。
その先は、「小さな経済圏」で幸せになる人の方が多いのか、「小さな経済圏」が増えたせいで、自分の不幸に気がついて辛い思いをする人の方が多くなるのかは定かではありません。

それでも私には、選択肢が増える「小さな経済圏」が広がる世界のほうが明らかに魅力的に感じます。
時価総額が大きい会社を作った少数の起業家が賛美されるのではなく、名もなき多くの小さな革命家が、小さく広く世界を変えていく社会の訪れは本当に楽しみです。

『なめらかなお金がめぐる社会。 あるいは、なぜあなたは小さな経済圏で生きるべきなのか、ということ。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

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