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既刊のインデックス投資関連の本とは一線を画する一冊

こんにちは、温泉大好きフリーランスの山田(@aryuaryu)です。今回紹介するのは、『お金は寝かせて増やしなさい』(フォレスト出版)。私にとっては、インデックス投資(特にドルコスト平均法)の著書としては、「臆病者のための株入門 」以来のヒット本です。
本書の著者は、「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」という、インデックス投資業界では有名なブログを運営している水無瀬ケンイチさんという方です。私も、投資歴がかれこれ15年ほどになりますが、インデックス投資に関しては、こちらのブログで随分勉強させていただきました。
業界関係者ではなく、経験豊富な一投資家の視点
さて、こういったインデックス投資に関する著書は、投資の専門家であったり、FPだったり、証券会社の関係者だったりと、いわゆる業界のステークホルダーによるものがほとんどです。しかし、こちらの著者は、自分で実際に15年もの間インデックス投資をやってみた、「一投資家」としての視点で書かれているという意味で、一線を画するものになっています。
特に、本書の真骨頂は、インデックス投資に関する一般的な解説ではなく、インデックス投資を長く続ける上で陥りがちなメンタル面の問題や、実際の体験記(具体的な金額まで公開していて非常に生々しい)が書かれているという点に尽きます。
そもそもインデックス投資って何?
その前に、まず本書にかかれている「インデックス投資」について…。
ある日曜日。仕事と投資で疲れた頭を抱えて途方にくれていた私は、図書館に立ち寄りました。そこにはこう書かれていたのです。
「個人投資家にとっては、個々の株式を売買したり、プロのファンドマネージャーが運用する投資信託に投資するよりも、ただインデックスファンドを買ってじっと待っている方がはるかによい結果を生む」
(中略)
しかも、この本の主張は、国内外の学者たちによる様々な研究で実績が証明されており、プロの間ではよく知られた事実であることがわかってきました。
いつも投資のことが頭から離れず、仕事も中途半端になっていた私は、「これしかない!」と思ったのです。のちに私を投資の悩みから解放し、人生を大きく変えることになった、その本のタイトルは『ウォール街のランダム・ウォーカー』。
インデックスファンドというのは、いわゆる、「日経平均」や「TOPIX」「ダウ平均」「S&P500」などの株価指数と同様の動きをするように作られた投資信託です。基本的に、手数料はかなり安くなっています。
上記の『ウォール街のランダム・ウォーカー』によると、この「インデックスファンド」を淡々と買い続けたほうが、プロが運用するファンド(アクティブファンド)よりも、パフォーマンスが上がるというわけです。
理由は二つあって、
- プロが運用するファンド(アクティブファンド)は運用手数料が高いので、その分パフォーマンスが下がる。
- そもそも、株価の動きを予測するのは不可能に近く、ほとんどのアクティブファンドは、サルがダーツで株の銘柄を選んでいるのと同じレベル。
ということで1,2が合わさると、結局パフォーマンスがインデックスファンドに負けるというわけです。
ドルコスト平均法という積立投資の王道
さらに、毎月ひたすら同じ金額のインデックスファンドを買い続ける戦略を、「ドルコスト平均法」といいます。この方法だと、株価が下がっている時は、いつもより多めに株が買え、株価が上がっている時は購入額が少なめになります。
そのため、最終的に株価が割安な時はたくさん買い、割高な時は少ししか買わないという結果になり、株価(正確には株価指数)が長期的に上がれば、大きく資産が増えるという仕組みです。(本書では、ドルコスト平均法という言葉が出てきていませんが、手法そのものに批判もありますし、実際の生活環境の変化の中で毎月同じ額を買い続けるというのも現実的でないからでしょうか)
ということで、インデックス投資自体は、毎月一定のペースでその時の生活資金から余裕のある範囲で、インデックスファンドをひたすら積み立てていけば稼げます。インデックスファンドは、なるべく日本だけではなく世界全体の平均を買おうね。以上。
という、それだけの内容です。
インデックス投資を日本国内の特殊事情にカスタマイズ
本書では、実際にインデックス投資を行うにあたって、「今の日本特有の事情」をベースに、実際にアクションを起こすための方法がまとまっています。一例を上げると・・・。
- どのくらいの資産を残して、投資を行うべきか。
- 適切な資産配分(アセットアロケーション)の決め方。
- 投資すべき国内で変えるインデックスファンド。
それぞれ、本書では、
- 溜めておきたい生活防衛資金は「生活費」の2年分
- アセットアロケーションのキモは国内債券。
- 購入すべきインデックスファンドは、「三井住友・DCつみたてNISA・日本株インデックスファンド」「eMAXIS Slim先進国インデックス」「ニッセイ新興国株式インデックスファンド」の3つ。
といった回答を出しています。詳細はぜひお読みください。
また、推奨のインデックスファンドについては著者のブログの「低コストインデックスファンド徹底比較」で常に最新の情報が掲載されているようです。
こういった、国内特有の事情を加味した情報は大変ありがたいです。特に国内で世界全体の株式に投資を行うと、為替の影響を同時に受けるため、インデックスファンドの本場アメリカでインデックス投資を行うのとは大きく異なります。そのあたりの事情が丁寧に扱われているのは嬉しい限りです。
これでもかというほど書かれている「売りたくなった時の対策」
さて、実は本書の真の価値はここからです。
著者は、15年の投資人生の中で、数度の大暴落を経験しています。実際にすごい暴落が起きた時に、売りたくてしょうがない衝動や、同じペースでインデックスファンドを積み立て続けるのを辞めたくなる衝動とどう戦うのかについて、かなりの紙幅を割いて説明しています。
そうです。インデックスファンドは多くの人が長期間同じペースで続けることが難しく(技術的には超簡単なのに、精神的につらい)、その重要性についてしつこいほど論じられています。
どうしても売りたくなったときに触れるべき偉人の言葉を複数載せたり、誘惑に負けないためのチャートの見方だったり、思考の枠組みの変更法であったり、これでもかというほどです。
ちなみに、偉人の言葉の中で私が好きなのはこれ。
投資の世界では、感情は必ず間違った方向に投資行動を導くものである。気分の高揚している時(たいていは市場のピーク)は株を買いたくなり、不安を感じるとき(たいていは市場が低迷している時)は売りたくなるものである。健全な長期投資にとって、理性こそが友である。
『敗者のゲーム』(チャールズ・エリス著)より
おそらく、これからインデックス投信を始める人にはピンと来ないかもしれませんが、必ず経験する暴落期に、この項目を思い出してもらえばきっと役に立つこと請け合いです。
本書の一番の価値はこれだと思います
第5章の「涙と苦労のインデックス投資家15年実践記」は、かなり貴重な情報です。
というのも、まともに国内でインデックス投資ができなかった時代から頑張ってきた著者がどのような軌跡を辿ったか、実際の資産の推移や、下落率などを赤裸々にしながら話しているからです。大きなトピックとしては下記のようなイベントです。これらのイベントごとに、実際に著者の元本に対する資産がどのくらい増減しているかが実数で書かれています。
- 2005年小泉郵政相場
- 2006年ライブドアショック
- 2007年のサブプライムショック
- 2008年のリーマン・ショック
- 2009年 まさかのV字回復
- 2010年 ギリシャ・ショック
- 2011年 東日本大震災
- 2012年 アベノミクス
- 2013年 黒田バズーカ
特に、大きいのが1年で資産マイナス53%を経験することになった2008年のリーマン・ショック。様子を引用します。
今でも、思い出すと吐き気をもよおすほどの大暴落でした。
これは悪夢でしょうか。すべてのアセットクラスで大暴落(プラスだったのは日本債権のみ)が起こりました。株価暴落と同時に「円高」が急激に進み、先進国株式、新興国株式クラスなど外国資産は下落に拍車がかかりました。
しかも、この下落率は、多くの資産運用者が想定する最大損失水準(2照準偏差)をはるかに超えていました。
(中略)
私のブログにも、インデックス投資を紹介してきたことに対する誹謗中傷の嵐が吹き荒れました。
「梅屋敷は死ね!」
「今後10年間はマイナスだろうね」
「ぶっ殺すぞ」
「退職金全部パーじゃねえか、どうしてくれるんだ」
実際に暴落を耐えた人にしか分からない「稲妻が輝く瞬間」についても生々しく触れられています。
これらの苦難を乗り越えて淡々とインデックス投資を積み上げてきた著者の資産はどのようになったのか。驚くべき結果は是非本書をお読みください。
私も15年の間、一度事業が破綻しかかってほぼ所有株式がなくなった時期があるものの、ずっとインデックスファンドを含む投資をやっていたので、この資産の動きを見ながら懐かしくなって不覚にも涙ぐんでしまいました。いやー、下がる時はつらい。
まともに国内でインデックス投資ができなかった時代から、投資を続けている著者の大変貴重な記録
15年前の時点で、まともにインデックス投資ができる環境は日本にはほとんど整っていませんでした。そのため実際に15年に渡ってインデックス通しをやり抜いた著者のような人は、本当にわずかしか存在していないと思います。さらに、その間かなりひどい金融危機が数度起きており、大変貴重な記録だと思います。
また、本書ではインデックスファンドをいつ売るのか、どのように現金に変えるのかという「出口戦略」についても最後に詳しく触れています。出口戦略について書かれている著書を私は初めて読みました。これもまた、貴重と言えるでしょう。
率直に言うと、これからインデックスファンドを始める人にとっては、暴落の際の心構えや投資から撤退してしまいたくなるときの対策など、ピンと来ないのではと思います。しかし、暴落は必ずやってきますし、その際に精神に受けるダメージは半端ないので、本書に目を通しておき、さらに実際の事態が起きたら読み返すと本当に救いになるでしょう。
すでに、インデックスファンドで投資をしている人はもちろんですが、資産運用に興味がある人、安定した長期投資の真実がどんなものか知りたい人は、ぜひ一読をおすすめします。
最後に、インデックス投資に興味のある方は、本書と併せて下記の二冊を読めばバッチリです。
『ウォール街のランダム・ウォーカー〈原著第11版〉(バートン・マルキール)』
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